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大辻 敏成

制作の経緯とアナリーゼ  汎美秋季展出品「蜃気楼―赫のゆらぎ」に寄せて

 本格的な蜃気楼は未だ観たことがない。武蔵野の逃げ水程度のものはよく眼にするが、これも蜃気楼の一種である。地上、海上や砂漠等の気象現象で、寒冷な空気層の下に熱せられた温暖な空気層が発生し、無風状態でバランスしたときに、層の境目が鏡面状になって物体が倒立反射をしたり、遠方の風景が写ったり浮上して見えるのである。
 さて、「蜃」とは大蛤のことで、史記などに出てくる古代中国の話なのだが、海中の大蛤が天空へ向けて息を吹き出すことがあり、その息に風景が写るというもので、私は前者の科学的な説明よりもこの話を信じることにしている。大蛤の吹き出す息には、私の過去・現在・未来の三時が映し出される。とりわけ過去つまり「デジャ・ヴュ※」の世界が大きな比率を占めるのは必然の成り行きだろう。其れは私が生きてきた証でもある。また私は曲線に興味を感じている。
 曲線には種類があり、有機曲線を主体に「三時」を包括しようとしたのが「蜃気楼」 
 1.無機的曲線 2.中間曲線 3.有機的曲線 ( 無機=生命体ではない意。 有機=生命のある意。)
であり、従って大いに「ゆらぐ」のである。ゆらぎは、恰も神経細胞のようにその触手を伸ばし関係づけが行われる。有機曲線の「叢(むれ)」がまた一つの生命体でもある。生命体を強めるために、無機及び中間曲線、または中間曲面を諸処に置いた。
 宇宙空間へ向けて、「三時」を含む時空が感ぜられれば僥倖である。

技術的な面で
 左上から右下へ流すのは私の好みであること。
 同一要素は避けているつもりだが。またかなり細部まで拘った。
 塊として周囲の空間との関わりはどうだろうか。
 赤系は私の最も好きな色。動脈血よりも更に赤く、赫くありたい。
 宇宙空間は瞑く、私の赴く先も瞑い。

※デジャ・ヴュ=記憶錯誤の一種、過去に経験したことがあったような、しかし実際には見たとは考えられない世界。即視感ともいう。個人の経験の総体を含むと考える。

gazou1

萌える信濃追分(水彩)

gazou2

佐久荒船山秋景(水彩)

gazou3

「彩りの女」 N夫人

gazou4

南八甲田・瓢箪沼晩秋(水彩)

gazou5

武蔵野の桜紅葉

油彩F10号

gazou6

蜃気楼・ゆらぎ

F100号 
2007汎美展

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